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1ドル=150円を突破したというニュースを見て、「政府が介入するかもしれない」という報道を目にしたことはありませんか。この「介入」とは一体何を指しているのでしょうか。

為替介入とは、政府が為替市場で直接通貨を売買し、急激な相場変動にブレーキをかける行為です。円安が進みすぎたときは円を買い、円高が進みすぎたときは円を売ります。

誰が何をするのか

為替介入は財務大臣の権限で決定されます。しかし実際に市場で通貨を売買するのは日本銀行です。日銀は財務大臣の代理人として、指示に従って介入作業を行います。

介入に使われる資金

介入資金は財務省が管理する外国為替資金特別会計から出されます。この口座には主に米ドルや米国債が保管されており、円を買うときはここからドルを売却します。

介入の実行手順

例えば円安が急速に進んでいるケースを考えてみましょう。介入は次のような流れで実施されます。

  1. 財務大臣が為替介入の実施を決断
  2. 財務省が日本銀行に具体的な指示を出す
  3. 日銀が民間銀行にドルを売り、円を買い取る
  4. 民間銀行が受け取ったドルを市場で売却する
  5. 市場全体に円買いの流れが生まれる

この取引によって市場に「円を買いたい」という需要が発生し、円高方向へ圧力がかかります。

なぜ介入が必要なのか

為替レートは本来、市場の需給で決まるものです。それなのになぜ政府が介入するのでしょうか。理由は急激な変動が経済に与える悪影響にあります。

生活への影響

極端な円安が続けば輸入品の価格が跳ね上がります。ガソリン、小麦、電気料金など生活に欠かせない品目の値上がりは家計を直撃します。

反対に急激な円高は輸出企業の収益を圧迫し、最終的には雇用や賃金にも響きます。為替介入はこうした極端な動きを和らげるために実施されます。

いつ介入するのか

政府は特定の為替レートを目標にしているわけではありません。重視するのは変動の急激さです。短期間で大きく動いた場合や、投機的な取引で実体経済と乖離した水準になった場合に介入が検討されます。

財務省は介入の実施状況を後日公表しますが、実施の瞬間にはコメントを避けるのが通例です。

介入の効果と限界

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為替介入には短期的な効果が期待できますが、中長期的なトレンドを変えるのは困難です。その理由を理解するには、為替レートを動かす本質的な要因を知る必要があります。

金利差という壁

為替レートを最も大きく左右するのは各国の金利差です。日本の金利が0.5%でアメリカの金利が5%なら、投資家はドルを持ちたいと考えます。この構造が変わらない限り、介入で一時的に円高になっても再び円安に戻ります。

市場規模との比較

世界の外国為替市場では1日あたり数百兆円が取引されています。日本政府が数兆円の介入を行っても、巨大な市場全体からみれば限定的な影響しか与えられません。

要素 内容
世界の外為市場規模 1日あたり数百兆円の取引
日本の介入規模 1回あたり数千億円~数兆円程度
主な決定要因 日米金利差、経済指標、地政学リスク
介入の効果 短期的な変動抑制、市場心理への働きかけ

単独介入と協調介入

為替介入には日本だけで実施する単独介入と、複数国が同時に行う協調介入があります。協調介入は効果が大きい反面、実現のハードルも高くなります。

協調介入のメリット

複数の国が同じタイミングで介入すれば、市場に与える影響は単独介入の何倍にもなります。1985年のプラザ合意後に実施された協調介入は、ドル高を大きく是正した歴史的な事例です。

実現の難しさ

各国の経済状況や政策目標は異なります。日本が円安を問題視していても、アメリカが同じ認識とは限りません。協調介入には各国の利害調整が必要で、簡単には実現しないのが実情です。

日本銀行は必要に応じて海外の通貨当局に介入を委託することもあります。

最近の介入事例から学ぶこと

2022年から2024年にかけて、日本政府は複数回の円買い介入を実施しました。歴史的な円安進行への対応でしたが、結果は限定的でした。

繰り返される円安

介入直後は円高方向に動くものの、日米金利差が縮小しない限り再び円安に戻る展開が続きました。市場参加者も介入の可能性を織り込んで取引するようになり、効果はさらに薄れていきます。

根本的な解決策

為替介入はあくまで緊急時の対症療法です。中長期的な為替レートは次のような要因で決まります。

  • 各国の金利政策と金利差の動向
  • 経済成長率やインフレ率といった経済の基礎的条件
  • 貿易収支や経常収支などの国際的な資金の流れ
  • 地政学リスクや市場のセンチメント

これらの要因が変わらなければ、いくら介入を繰り返しても為替レートは元の水準に戻っていきます。

私たちが知っておくべきこと

為替介入は政府が持つ最後の手段のひとつですが、万能ではありません。短期的な変動を抑える効果はあっても、長期的な流れを変えることは困難です。

私たち個人にできるのは、為替の動きが生活や経済に与える影響を理解し、極端な変動に振り回されない冷静さを持つことです。政府の介入だけに頼るのではなく、為替変動を前提とした家計管理や資産形成を考える視点も大切になるでしょう。