
銀行にお金を預けると利息がもらえるのが常識ですが、「マイナス金利」の世界では話が逆転します。預けた側が手数料を支払う状況が生まれるのです。
日本では日本銀行が2016年1月から2024年3月まで、約8年間にわたってこの政策を実施しました。私たちの生活にも大きな影響を与えた異例の金融政策について、わかりやすく解説します。
マイナス金利の基本的な仕組み
マイナス金利とは、中央銀行が民間の銀行から預かるお金に対して、利息を付けずに逆に手数料を取る政策です。一体どういうことなのか、順を追って見ていきましょう。
通常の金利との違い
| 項目 | 通常の金利 | マイナス金利 |
|---|---|---|
| 銀行が日銀に預けた場合 | 利息を受け取る | 手数料を支払う |
| 銀行の行動 | 日銀に預けておく | 企業や個人への貸出を増やす |
| 預金者への金利 | 一定の利息あり | ほぼゼロ |
通常であれば、銀行は余ったお金を日本銀行に預けて利息を得ていました。しかしマイナス金利政策では、預けると手数料がかかるため、銀行は企業や個人への貸出を増やそうとするわけです。
日本での導入と解除
日本では2016年1月にマイナス金利政策が導入されました。当時はデフレから脱却できず、景気を刺激する必要があったのです。
具体的には、銀行が日本銀行に預ける当座預金の一部に対して、マイナス0.1%の金利を適用しました。そして2024年3月、約8年間続いたこの政策は解除されました。
なぜマイナス金利を導入したのか

日本銀行がこの異例の政策を導入したのには、明確な目的がありました。長期にわたる景気低迷とデフレからの脱却が最大の課題だったのです。
マイナス金利の3つの狙い
- 企業への貸出を増やす:銀行が日銀に預けるコストを避けるため、企業への融資を増やし、設備投資や雇用拡大につなげる
- 消費を刺激する:預金金利が下がることで、お金を貯めるより使ったり投資したりするよう促す
- 円安を進める:金利が低い円を売って他の通貨を買う動きが強まり、輸出企業に有利な円安が進む
特に重視されたのは、物価上昇率2%の目標達成です。物価が適度に上がることで、企業の売上増加や賃金上昇といった好循環を生み出す意図がありました。
私たちの生活への影響
マイナス金利政策は金融機関だけの話ではありません。一般の人々の暮らしにも、良い面と悪い面の両方で影響を及ぼしました。
預金金利はどうなったか
| 預金の種類 | マイナス金利導入前 | マイナス金利中 |
|---|---|---|
| 普通預金 | 年0.02%程度 | 年0.001% |
| 定期預金(1年) | 年0.025%程度 | 年0.002~0.003% |
| 100万円を1年預けた利息 | 200~250円 | 10~30円 |
預金金利がほぼゼロになったことで、貯蓄だけでは資産が増えにくくなりました。これをきっかけに、投資信託や株式など他の運用方法を検討する人が増えました。
住宅ローン金利の変化
一方で借りる側にとっては大きなメリットがありました。住宅ローンの金利が歴史的な低水準となり、マイホーム購入のハードルが下がったのです。
変動金利型の住宅ローンでは年0.3~0.5%台という超低金利も登場し、多くの人が借り換えを検討しました。月々の返済額が大幅に減った世帯も少なくありません。
マイナス金利のメリットとデメリット

マイナス金利政策には、立場によってさまざまな影響がありました。誰にとってプラスで、誰にとってマイナスだったのでしょうか。
メリット
- 借りる人:住宅ローンや事業資金の借入コストが大幅に下がった
- 企業:資金調達がしやすくなり、設備投資や事業拡大がしやすくなった
- 輸出企業:円安により海外での価格競争力が高まった
- 不動産投資家:低金利で物件購入しやすくなり、投資が活発化した
デメリット
- 預金者:特に年金生活者など、利息収入がほぼゼロになった
- 銀行:貸出と預金の金利差(利ざや)が縮小し、収益が悪化した
- 消費者全般:円安により輸入品の価格が上昇し、生活費が増えた
- 保険加入者:運用利回りの低下で、貯蓄型保険の予定利率が下がった
高齢者など預金で生活している人にとっては、利息収入の減少が家計に響きました。銀行も収益確保が難しくなり、ATM手数料の見直しなどで対応を迫られました。
2024年3月のマイナス金利解除
日本銀行は2024年3月19日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除を決定しました。17年ぶりの利上げとなり、長く続いた異例の金融政策が終わりました。
解除の理由
| 判断材料 | 内容 |
|---|---|
| 賃金上昇 | 2024年春闘で5.28%と32年ぶりの高水準 |
| 物価動向 | 2%の物価上昇目標が持続的に達成できる見通し |
| 経済状況 | 賃金と物価の好循環が確認された |
解除後は預金金利も徐々に上昇し始めています。ただし急激な変化ではなく、緩やかな正常化が進んでいる状況です。
住宅ローン金利も上昇傾向にあるため、これから借入を検討する人は金利動向に注意が必要です。変動金利を選ぶか固定金利を選ぶかは、慎重に判断したほうがよいでしょう。
今後の生活への影響
- 預金:普通預金や定期預金の金利が少しずつ上がる可能性
- ローン:住宅ローンや自動車ローンの金利が上昇する可能性
- 保険:長期金利上昇により、貯蓄型保険の予定利率が改善する可能性
- 投資:債券価格が下落する一方、預金の魅力が相対的に高まる
マイナス金利は世界的にも珍しい政策でした。日本の経験は、金融政策の可能性と限界を示す貴重な事例として、今後も分析され続けるでしょう。