住宅購入を検討する際、多くの方が直面するのが住宅ローンの金利タイプ選びです。変動金利型と固定金利型のどちらを選ぶべきか、悩まれる方も多いでしょう。

令和5年度の調査では、個人向け住宅ローンの新規貸出における変動金利型の割合は84.3%に達し、多くの利用者から選ばれている金利タイプとなっています。

変動金利とは、市場の金利変動に応じて借入金利が定期的に見直される金利タイプのことです。経済情勢や日本銀行の金融政策によって金利が変動するため、返済期間中に適用金利が上昇または下落する可能性があります。

変動金利の基本的な仕組み

変動金利型住宅ローンは、返済期間中に適用金利が変動する特徴があります。金利の見直しは多くの金融機関で半年に1回の頻度で行われ、一般的には年2回、4月と10月に適用金利が見直されます。

変動金利の基準となるのは「短期プライムレート」です。短期プライムレートとは、金融機関が信用度の高い優良企業に対して短期貸出を行う際に適用する最優遇金利を指します。この短期プライムレートは日本銀行の政策金利の影響を受けるため、日銀の金融政策が変更されると変動金利にも影響が及びます。

項目 内容
金利見直し頻度 半年に1回(4月と10月)
基準金利 短期プライムレート
影響要因 日本銀行の政策金利
新金利適用時期 見直しの2ヶ月後(6月と12月)

5年ルールと125%ルールの仕組み

変動金利型住宅ローンには、借り手を保護するための特別なルールが設けられています。金利が変動しても、返済負担が急激に増加しないよう配慮された制度です。

5年ルールとは、適用金利が半年ごとに見直されても、毎月の返済額は5年間変わらないという仕組みです。返済額の見直しは5年ごとに行われ、借入開始から5年目、10年目といった節目で返済額が再計算されます。金利が上昇した場合でも、返済額における元金と利息の割合が調整されるため、5年間は毎月の返済負担額が一定に保たれます。

125%ルールは、5年ごとの返済額見直し時に適用されるルールです。金利が上昇した場合でも、新しい返済額は従来の返済額の1.25倍を超えないという上限が設けられています。仮に従来の返済額が月10万円だった場合、見直し後の返済額は最大でも12万5千円までとなります。

ルール名 内容 目的
5年ルール 5年間は毎月の返済額が一定 急激な返済負担増加の防止
125%ルール 返済額の上限は従来の1.25倍 返済額増加幅の制限

未払利息への注意点

5年ルールと125%ルールは借り手を保護する措置ですが、注意すべき点があります。それが「未払利息」の発生です。

金利が上昇しても返済額が一定に保たれる期間中、返済額に占める利息の割合が増加します。適用金利が急激に上昇した場合、利息が返済額を上回ることがあり、この上回った利息が未払利息として翌月以降に繰り延べされます。未払利息は最終的には支払う必要があり、最終返済期日に残っている場合は原則として一括返済が求められます。

つまり、5年ルールによって毎月の返済額は変わらなくても、総返済額は増加する可能性があることを理解しておく必要があります。また、返済額における元金の返済が進まないため、借入残高の減少ペースが遅くなる点にも注意が必要です。

変動金利と固定金利の違い

住宅ローンの金利タイプには、変動金利型のほかに全期間固定金利型や固定金利期間選択型があります。変動金利と固定金利の最大の違いは、経済情勢の影響を受けるか否かという点です。

全期間固定金利型は、借入時に決定された金利が返済終了まで変わりません。返済額が確定しているため返済計画を立てやすく、金利上昇リスクを避けられる利点があります。一方で、変動金利型と比較すると借入時点での金利水準は高く設定されています。全期間固定金利型は10年物国債の利回りなどの長期金利の影響を受けます。

  • 変動金利型:政策金利(短期プライムレート)に連動し、半年ごとに見直される金利タイプ。借入時の金利水準は低いが、将来の金利上昇リスクを借り手が負う
  • 全期間固定金利型:長期金利に連動し、借入時から完済まで金利が変わらない金利タイプ。金利は高めだが、返済額が確定するため安心感がある
  • 固定金利期間選択型:一定期間は固定金利で、期間終了後に変動金利か固定金利を選択できる金利タイプ。両者の中間的な性質を持つ

変動金利を選ぶメリットとデメリット

変動金利型住宅ローンには明確なメリットとデメリットが存在します。自身の家計状況やライフプランに照らし合わせて、慎重に検討する必要があります。

最大のメリットは、借入時の金利水準が低いことです。固定金利型と比較すると金利が低く設定されているため、借入当初の返済額を抑えられます。また、市場金利が下降局面にあれば、返済額が減少する可能性もあります。さらに、多くの金融機関では借入期間中に固定金利へ変更できる柔軟性も備えています。

一方で、デメリットは金利上昇リスクです。経済情勢や金融政策の変化により金利が上昇すると、返済額が増加する可能性があります。借入時点では将来の返済額が確定しないため、長期的な返済計画が立てにくい面があります。特に2024年3月の日本銀行によるマイナス金利政策解除とその後の追加利上げにより、変動金利も徐々に上昇傾向にあります。

メリット デメリット
借入時の金利が低い 金利上昇リスクがある
金利下降時に返済額が減る 将来の返済額が不確定
固定金利への変更が可能 返済計画が立てにくい

変動金利に向いている人の特徴

変動金利型住宅ローンは、すべての人に適しているわけではありません。家計の状況やライフプランによって、向き不向きがあります。

家計に余裕があり、金利が上昇しても返済を続けられる経済力のある方には変動金利が向いています。十分な貯蓄がある場合や、夫婦共働きで世帯収入が安定している場合は、金利上昇時にも対応しやすくなります。また、返済期間が比較的短い場合や、直近で支出の減少が見込まれる場合(自家用車のローンや奨学金の返済終了など)も、変動金利の選択肢が適しています。

さらに、経済や市場の動向に関心があり、定期的に情報収集を行える方にも向いています。金利上昇の兆候を察知して、適切なタイミングで固定金利への切り替えや繰上返済といった対応策を講じることができるためです。

今後の金利動向と選択のポイント

2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除し、同年7月と2025年1月には追加利上げが実施されました。これにより政策金利は約0.5%まで上昇し、変動金利型住宅ローンの金利も2025年4月におおむね0.15%~0.35%上昇しています。

今後も経済情勢や物価動向によっては、さらなる金利上昇の可能性があります。住宅ローンは20年から35年という長期にわたる返済となるため、目先の金利水準だけでなく、将来のライフプランを見据えた選択が重要です。変動金利を選択する場合は、金利上昇時のシミュレーションを行い、返済額が増加しても家計を圧迫しないか事前に確認しておくことが推奨されます。

住宅ローンの金利タイプ選びに正解はありません。ご自身の収入状況、貯蓄額、将来の支出予定などを総合的に考慮し、金融機関の窓口や住宅ローンアドバイザーに相談しながら、最適な選択をすることが大切です。